ad

結婚したくない日本人と、結婚したくないシンガポール人、それぞれが迎える日曜の夜

人気ブログランキング
日本とシンガポールの共通点の1つは、晩婚化(非婚化)が加速しているということにある。

2015年の国勢調査によると、日本における50歳まで一度も結婚をしたことがない人の割合は男性23.37%、女性14.06%になる。これを受け「男性のおよそ4人に1人、女性のおよそ7人に1人が生涯未婚である」と日本の危機を示している記事もあるが、かくいうシンガポールも他人事ではない。2015年統計局の調査によると、シンガポール人30〜34歳の未婚率が男性37.5%、女性25.5%にものぼり非婚化が嘆かれている。

しかし同じように晩婚化(非婚化)が問題視されていても、日本とシンガポールでは「結婚したくない理由」というものが少し違ってくる。

そういうわけで今日は、32歳の日本人と、同じく32歳のシンガポール人、異なる2つの国におけるそれぞれのストーリーをご覧いただきたい。

(※登場人物は仮名、ストーリーは主観に基づいています。)

結婚したくない日本人サエコ

あー結婚なんてしたくない。

今年32歳を迎えるサエコは、東京都港区にオフィスを構えるコンサルティングファームの事業戦略部勤務。マネージャーに昇進したばかりのバリキャリOLだ。大学時代から長らく続いていた女子6人組の集い最後の砦であったユウリは先月入籍し、いつしか独身貴族を貫いているのは自分一人になってしまった。ご祝儀貧乏に悩まされた時期は、台風のように一気に過ぎ去った。

特に予定もない日曜の夜。社会人になってからだろうか、翌日へ向けた体力温存のために、日曜夜に出掛けることが億劫になったのは。渋谷区の駅近マンションの1室で、一人同僚にオススメされて買った赤ワインを開ける。お月様は冬の寒さにはビクともせず、閑散とした街を照らしている。やっぱり自分の家は至福だ。

仕事に没頭する日々ではあるが、サエコも再来月の誕生日で32歳。そろそろ結婚を視野に入れている。この間の合コンでは久しぶりに好印象の人がいて、ロンドン勤務の一時帰国中だというから、来週末は神楽坂の日本料理屋さんでデートの予定だ。

LINEの通知音が鳴った。淡い期待を込めてiPhoneの画面ロックを解除する。なぁんだ、スタンプ新着通知かい。週替わりで変えているネイルに目を落とす。先日東京では珍しく大雪なんて降ったものだから、今回は金色ラメのベースに合わせて、親指と薬指には小さな雪の結晶を散らしてみた。

別に専業主婦になりたいという願望がある訳じゃない。むしろ仕事をせず家にいるのは性に合わない。非生産的すぎる「洗濯物干し」なんて業務、この世から消えてしまえばいい。そうじゃなくて、タバコ臭い満員電車に揺られ、笑顔という名の仮面を貼り付け、まともな人間関係を送るためだけに、興味関心すらないスポーツや今流行りの仮想通貨に関する話題をインプットする日々。そういう日常から逃げ出したいだけだ。一緒にネイルサロンに行った友人に、「サエコは結婚とかしないの?」と聞かれたが、「今はまだ仕事でやりたいことがあるから」と答えた。同じ質問を母親からされたら「いやもう今すぐ辞めたいわー」と愚痴が止まらなかっただろう。あー神様私をこのままロンドンへ連れて行ってください。

ただし現実に戻ると、結婚という欲望は一気に冷めるから厄介だ。ギブアップせざるを得ないキャリア、面倒臭い親戚付き合い、そしてさらに先を見据えたところで極めつけは都内での子育て。待機児童がごまんと溢れかえるこのご時世、不安の1つもなしに子どもを作れる夫婦はきっとプライベート保育士かなんかを雇える程リッチな方々なんだろう。子どもの年齢が上がるにつれ肥大化していく教育費。都内の家賃は高いのに消費税だって増えるばかり。家族が増えることで右肩上がりになる出費の数々。それに反比例して減少していく自分のフリー時間。あああ無理。そんなの名門大学卒×港区勤務×渋谷区在住のプライドが許さない。

現在年収900万を超えるサエコの給料は、週1のネイルサロンや丸の内でのショッピング、半年に1回の海外旅行といった趣味を楽しむには十分だ。しかし自分が会社を辞めるとなると、趣味を維持するためにはそれなりに大手の企業の優秀社員と結婚するしか道はない。

悲しいが、日本には「奥さん」というだけで何となく上から目線で発言してくる男性陣が沢山いる。その態度から嫌というほど滲み出る、男尊女卑。フルタイムのオフィス出勤で仕事をしている者が、そうでない者よりも秀でているという目に見えないクソみたいな方程式。そんなものにハマるくらいなら、いっそ結婚なんてしたくない。

あら、いつの間にかワインを1本空けてしまった。明日はランチの予定しかないし、その後またネイルサロンでも行こうかな。

東京の夜は今日もしっぽりと更けていく。

結婚したくないシンガポール人ビビアン

あー結婚なんてしたくない。

今年32歳を迎えるビビアンは、ラッフルズプレイス周辺にオフィスを構える外資系金融企業のファンドマネージャー。シンガポール国立大学(NUS)を首席卒業した、超優秀人材だ。小学校時代から長らく続いている女子6人組の集いは今でも健在、毎年必ず1回は一緒にアジア小旅行に行っている。旅行費貧乏に悩まされた新卒時代なんて、今では嘘のようだ。

特に予定もない日曜の夜。社会人になってからだろうか、毎年行われる会社のランニングイベントに向けた体力強化のために、休日ジム通いをするようになったのは。昨日4kmも走ってきたので、今日くらいは怠けても許されるだろう。今はPotong Pasirから徒歩10分ほどの場所にある一軒家で、両親と弟、それからポメラニアンのキャリー(9歳)と暮らしている。夜は決まって一人自分の部屋にこもり、小学校からの友人にオススメされた映画を観る。数年前に流行ったという台湾の恋愛ドラマ。お月様は夏の蒸し暑さをものともせず、静まり返った街を照らしている。やっぱり自分の実家は至福だ。

仕事に没頭する日々ではあるが、ビビアンも再来月の誕生日で32歳。親戚の叔母からはそろそろ結婚をと迫られるけれど、そんな気はさらさらない。この間の見慣れた顔が勢ぞろいした同窓会で、クラスメート2人の結婚が報告された。そのROM(Registration of Marriage)祝いのため、来週末またみんなで、いつもの中華屋さんで集まる予定だ。かたや自分の最近の良い報告といえば、昇級して給料が上がったくらい。

WhatsAppの通知音が鳴った。耳は映画に集中しながらSamsungの画面をタップする。あーなんだ大学の友だちジョナサンか。またなんか面白いYoutubeのリンクを送ってきただけだろうから、既読無視。映画の展開がだれてきたので、ふとこの間友達の家で塗ったネイルに目を落とした。旧正月がそろそろ近づいているので、赤と白の交互にゴールドのラメを入れてみた。ぱっと見少し派手だけれど、オフィスで注意する人なんていないだろう。

別にこのまま一生結婚したくない訳ではない。むしろずっと今の激戦状態で肩肘張って生きていくのは性に合わない。安全性ばかり唄った「資産運用」なんて業務、この世から消えてしまえばいい。

そうじゃなくて、実家暮らしで、家事はもちろん親任せで、貯金も溜まり、残業なしのアフター6も楽しい何一つ不自由がない充実した日々。そういう日常から離れられないだけだ。この間Somersetの日本食屋さん大戸屋でのランチに誘ってくれた旦那持ちの友人に、「独身のうちに楽しめることは楽しまないと!」と独身貴族生活の背中を押されたときは、正直自分はまだ勝ち組だと思った。ずっと家にいる私にも、今年30歳の弟にも、両親が結婚に関してとやかく言ってくることはない。むしろ実家にいて老後の面倒を見てほしいと思っているのではないだろうか。あー神様どうか結婚しても実家にいることを許してくれる車持ちの男性をこの世に送ってください。

ただし現実に戻ると、結婚というライフイベントは一気に押しかかってくるから厄介でもある。ギブアップせざるを得ないキャリア、面倒臭い親戚付き合い、そしてさらに先を見据えたところで極めつけは子育て。子どもを見てもらうためメイドを雇うには、共働きでないととてもやっていけないだろう。子どもの年齢が上がるにつれ肥大化していく教育費。旧正月のお年玉「アンパオ」だって結婚したとたん”あげる側”になってしまうし、なんだかんだ右肩上がりになるのは避けられないであろう出費の数々。それに反比例して減少していく自分のフリー時間。しかも今まで一軒家の実家暮らしだったのに、結婚したら間取りの狭いHDB(公共住宅)住みになる可能性だってある。あああ無理。そんなの独身天国を謳歌しているTHE自由人間は耐えられない。

現在年収900万を超えるビビアンの給料は、年数回の海外旅行や美容サロンなどを楽しむには十分すぎる量だ。しかし自分が結婚していつか子どもを持つとなると、実家暮らしである今の生活水準を維持するためには、きちんと国に奉仕しつつ自分よりも稼ぎの良い(自家用車を購入できるレベル)優秀人材とゴールインするしか道はない。

悲しいが、シンガポールには「女性だから」というだけで仕事のパフォーマンスに妥協できるような譲歩はなく、男性陣と同じ一戦での活躍を求めてくる企業も少なくない。家事も仕事も子育ても全部女である自分が担うだなんてクソみたいなリストの数々。そんなものを課されるくらいなら、いっそ結婚なんてしたくない。

あら、いつの間にか映画を1本観終わってしまった。明日はランチの予定しかないし、その後またいつメン集合命令出してみようかな。

シンガポールの夜は今日もゆっくりと更けていく。

—————————————————————————————————

本日も最後まで読んでくださってありがとうございました!