初めての集団授業で失敗した話。A lawn mowerって何だか知ってますか?

私が初めて英語の集団授業を受け持ったのは2013年。

生徒は、35歳〜55歳のメキシコ人だった。

2013年の9月から2014年の3月まで、私はアメリカ合衆国カリフォルニア州の大学に留学していた。

大学のとある授業テーマ「母国の課題」で英語教育について話をしていたら、たまたまその聴衆に同大学のTESOLディレクターがいらっしゃって、英語教授資格であるTESOL(てーそる)資格にチャレンジしてみない?と誘ってくれたのがきっかけだ。

TESOLとはTeaching English to Speakers of Other Languagesの略称で、英語が母国語ではない人々向けの英語教授法に関する資格のこと。

教授法に関する座学と、教育実習をもって、修了となる。

当時は大学2年生。それまではマンツーマンか、1対2の英語の授業しか経験していなかった私にとっては、初めての集団授業だった。

担当は、35歳〜55歳程のメキシコ人たち、約25人からなるElementary(初級)クラス。

これが当時実際に使っていた時間割。

TESOL受講者は全5名。

私以外は皆社会人だったので、クラスは基本的に平日夜と週末に行われた。

昼間は学生と共に通常のクラスを受講していたので、両方の課題に追われ文字通り泣きながら勉強していたのを覚えている。自分で言うのもなんだけれど、英語力が一番伸びた時期でもあると思う。のびしろが大きかったからね。笑

ショッキングな新出単語

しかしまた、日本語の1つも通じればもう少し気楽に教えられたかもしれないのに、生徒がいきなりメキシコ人、しかも大人ときた。

日本人の大人でさえどう惹きつけられるか怪しいのに。不安は募るばかりだった。

初回授業が刻々と迫ってくる中、まずは教材チェックのためElementaryクラス用の教科書を手に取った。

Lesson1Scene1の、新出単語一覧表に目を通す。

一つ目の単語。

【a lawn mower】

???

いきなり知らないぞこれ。

電子辞書で引いてみる。

【名詞・可算名詞:芝刈り機】

やっぱ知らねぇーーー。笑

“Can you~?”の疑問文すら危うい初級クラスの生徒に、いきなり「芝刈り機」を求めるなんて。

その次に列挙されていた単語たちも、かなり高度なものだった。

・Application form/ 申請書

・Immigration/ 入国審査

・Occupation/ 職業

・Signature/ 署名

・Social insurance/ 社会保険

なんだこれは?

初級クラスの生徒で間違いないよね?

もしやメキシコ人って天才なのか?いや、母語と英語が似ているから苦労しないのかな。

結局これらの単語は明らかに初級レベルではないと判断し、あまり重点を置くことはせずに、授業は過ぎていった。

授業は初級レベルの彼らが無理なく覚えられる内容で固めていたので、置いてけぼり状態になる生徒も出なかった。

教材に見られる異文化の大切さ

そんなこんなでクラスを担当して一週間弱が経過したある日。

私の父親とそう変わらない年齢の生徒が、教室の壁に貼ってあった世界地図の前で手招き(正確には人差し指をくいっと曲げた動作)をしてきた。地元で郵便配達とトリマーの仕事を掛け持ちし、娘2人の父親でもある生徒だった。自分から地図の前まで呼びつけたにもかかわらず、何も話しかけてこない。

こちらから”Do you know Japan?”と尋ねると、オーストラリアを指差された。いやいや、そんなに大きくないって。代わりに小豆サイズの点を示した。するとあまりに期待外れの極小ぶりに落胆したのか、しばらく無言で固まってしまった。そしてそのあと、”many money?”と問いかけてきたのだ。

この時知ったのだが、生徒の多くは、成人してからメキシコから移動してきた移民だった。

アメリカ合衆国で子どもを産み、ヒスパニック系アメリカ人として現地校に通わせるが、自身の英語力が十分でないために定職につけず、また学校のPTA事業にも馴染めないでいた。それでも何とかして英語を身に付けたいと、子どもたちを家族や近所に預けた後、語学学校が無料提供している英語の夜間コースに足を運んでいたのだった。

たぶん、彼にとっては日本がどこにあるのかとか、どのくらいの大きさだとか、そんなことはどうでもよかったのだと思う。

その時やっと、自分が犯した間違いに気が付いた。

クラスで教える単語・表現は、彼らの実生活に基づいていなければ意味がないということ。

「芝刈り機」も、「入国審査」も、「社会保障」も、彼らの生活において最も不可欠な単語だったのに。

何で最初から気付いてあげられなかったんだろう。

教材に書いてあった新出単語が「初級クラスの生徒にとって難しすぎ」という判断は、自分の杓子定規に過ぎなかった。

あー全部を白紙に戻したい。後悔の念がザーッと押し寄せてきた。

この時点で、全部で3ヶ月に及ぶ教育実習の3分の1が終わろうとしていた。私の授業を監修していた先生から、時を狙ったかのようにフィードバックがあった。「教材が何を伝えようとしているのかしっかり理解すること」と。しょっぱなからハラハラドキドキだったらしい。気付いていたなら最初から注意してくれれば良かったのにとも思うけれど、それは彼女の優しさだったということにしておこう。

結局その後は、来る晩来る晩、当時知る由もない単語を20も30もひたすら覚え続けることとなった。

なにせ当時は自分自身が英会話経験ほぼゼロの文法読解マシーンだったので、こういった単語はいわゆる「見りゃわかるけど会話では使えない」レベルに過ぎない。

今思い返すと、そんな地に足ついていない状態で教壇に立っていた当時の自分が本当に恐ろしい。

ちなみにa lawn mower(芝刈り機)はそれ以来一瞬たりとも忘れたことはない。

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本日も最後まで読んでくださってありがとうございました!