「普通」が存在しないから点数で比べるしかないシンガポール

多様性に溢れるということは、それだけ「普通」の概念がなくなるということだ。皆んながてんでバラバラであるから、共通項を見つけるのが難しくなる。

シンガポールには中華系、マレー系、インド系などの民族が混在している他、メイドや駐在者など外国人の数も多い。個人の尊重を唱い始めたらとても十把一絡げにできない、それが多文化国家シンガポール。外国人労働者である自分にとってもこの多様性はとても有難いものだ。皆んなそれぞれ境遇が違うという前提を国民全員がもって生きているので、「日本人」であれど「普通の日本人」としての振る舞いを社会に求められることがない。そのため自分を他者と比較しなくてもいいし、また他者から比較もされない。

SingStatsによる国籍別人口割合(2016)

日本では、幼稚園から大学まで同じ日本人のグループで共通の組織に属しているというだけで各コミュニティーで連体感が生まれていた。入学も卒業も就職も皆んな同じタイミングで、周囲の流れに身を任せていればそれなりに自分の人生も次のステージへと進んでいった。しかしシンガポールではそうはいかない。いつシンガポールにやってきて、いつ次の国に行くかなんて、誰もわからない。国籍も言語も宗教もバラバラ。「普通」という典型例が存在しないため、身を任せられる波がない。自分の人生は自分で切り開いていくしかないのだ。

数値化することで地位を確認するシンガポール

このように十人十色の多様性に溢れている国シンガポールでは「普通」を定義するのは難しい。しかし少し厄介なところは、普通というアベレージが存在しないにもかかわらず「他人よりも秀でたい」という向上心が蔓延っていることだ。俗に”キアス”と呼ばれるメンタルである。

あなたは才能に溢れていますね。でも君のこういうところも魅力だよ。あなたのこれも素敵ね。みんな違ってみんないい。はい、めでたしめでたしー。

ではなくて、この多様な社会における自分の地位を確認するために、最終的に順位付けをしなければ自分の価値を定めることができないのだ。

その結果、一番手っ取り早いのが全て数値化すること。その最たる例が公立小学校の6年生が受ける全国試験PSLE(Primary School Leaving Examination)である。このPSLEの結果がその人の人生を決定付けると言っても過言ではない。

シンガポールの教育制度をまとめた表の一番左、Primary 6 yearsの水色矢印が向いているのがPSLEだ。そこから上に向かってSecondaryに唯一直接伸びている矢印は障がい者などを対象とした特別支援学校を指すが、それ以外の場合は中学校以降の進路が全てPSLEから拡散されていることがわかる。つまりPSLEはほぼ避けられない通り道。そして人生の分かれ道。PSLEの結果次第でSecondary Schoolが決まり、大学のコースが決まり、ひいてはその先の職業までも左右される。ここで1度失敗すればその後の人生も全ておじゃんだ。シンガポールの義務教育は小学校6年生までなので、最悪の場合は小卒にして「この先の教育は受けずに働いてください」というお達しが来ることもある。平日のホーカーやコミュニティセンターで幼き我が子に教鞭を振るう母親がたくさん見受けられるのには、こうした決死の競争があるのだ。

PSLEの結果以外でも、シンガポール人はすぐ数値で他人と比較する傾向にある。大学ランキングで一目瞭然の学歴。持っている車の車種。住んでいる家の形態、場所。そして給料。

初めましての会話で立て続けに、

“Hi, how are you?”

“What do you do for work?”

“Oh, how much do they pay you?”

なんて聞かれて驚愕することも珍しくない。これは単純にお金に執着があるというだけではなく、数字で比べられるものくらいしか、自分と相手の共通項がないことの表れだとは考えられないだろうか。

人生の舵取りは自分ですること

なにはともあれ、この露骨な社会ステータス決定戦に参加しなくて良いあたり、自分はこの地での外国人労働者という立場を享受している。シンガポール=いつかは去る国という認識があるので、この地で一生を生き抜くために学歴や収入という数値をもって肩肘張る必要がない。日本人だからといって日本人の「普通」も曖昧だ。比較のしようがない。

シンガポールで外国人として生きていると、この「お互いに理解し合えることはない」という前提をお互いが理解している距離感がとても心地良い。

必要以上に他人と比較して「普通の人生」を求めるのではなく、自分にとっての「幸せな人生」とは何なのかを問い続けていこう。

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