憧れだけでは生きていけないフィールドで働く国連職員の覚悟

国際協力分野に足を踏み入れる人ならば、誰しも救いたい世界があるのだと思う。国連というとめちゃくちゃ頭のキレる職員たちが世界平和に向けて日々邁進しているような、ものすごくダイナミックなことを想像する人は多いかもしれない。

国際協力の一端を担っている国連がどういう風に動いているのか見てみたい。当時大学2年生だった私は、駄目元で学部生インターンに応募した。正直、何か大きなことに関われるんじゃないかと言う淡い期待があったし、国連に関われる自分像というものに少々酔っていたかもしれない。選考を経るにつれて、国連という組織はどんどん勝手に美化されていった。

そして実際にその美化された国連像は、最初の派遣国、東ティモールに飛んですぐに崩されてしまった。

なぜ国連で働きたかったのか職員に聞いてみた

ものすごく規模が大きくて実態を摑みにくい国連も、様々な人間の集まった組織である。

アメリカのカリフォルニアで、メキシコからのヒスパニック移民に英語を教えていた経験がきっかけで国際協力分野に興味を持ち始めた私は、国連職員になりたいという希望よりも、国連がどのように動いているのか知りたいという動機の方が強かった。

そして自分の将来像にはなかった国連職員という人たちが、それぞれどういう理由でこの仕事を選んだのか、とても気になったのだ。

そこで国連インターンの初日、派遣先の上司であった事務次長のウクライナ人に、国連に入った理由を尋ねてみた。すると衝撃の答えが帰ってきた。

私の生まれ故郷は紛争地帯で、ウクライナ政府軍と分離独立派による武力衝突がどんどん激化しているわ。家族全員を安全に国外脱出させるためには国連のパスポートを手にするしか道はないと思ったの。

雪のように白い肌に映える、キツネのような吊り目と真っ赤な口紅が印象的な、40代半ばの女性だ。国連前は、ウクライナ政府の渉外部で広報・プロジェクトマネジメントに従事していたらしい。6歳になる愛娘と、ウクライナ脱出のタイミングで無職となった夫を養うために、どの国でも良いから必死にポジションを見つけて潜り込んだ先が東ティモールだったという。残された友人に起こった悲劇や、生活の苦難を語ってくれた。年中30度を超える熱帯気候の東ティモールだけれど、この時ばかりは背筋が冷めていくのがわかった。

またカウンターパートであった東ティモール人職員にも同じ質問をしてみたところ、はにかみ顏でこう返答された。

遠い地に家族と親戚が大勢住んでいるからね。彼らに仕送りをし続けるためには国連の仕事じゃないとやっていけないよ。

「遠い地」というのは、後々聞いた話によると、車で丸1日かかってやっとたどり着くくらい辺鄙な山奥にある村のことだった。東ティモール人の平均月収は$250程度とも言われている中で、わざわざ国際平和を掲げて国連に入ってくる現地人は圧倒的に少ない。フィールドでは職員全体に対するローカルスタッフ雇用割合の最低基準が設けてあり、現地人のポジションは意図的に多く作られることもある。人々は文字通り生活、いや、人生そのものをかけてそのポジションにしがみついているのだった。

また36歳のスペイン人同僚は、ランチにインドネシア料理のバクソ(シンガポールのフィッシュスープみたいな感じ)を食べながら自分の胸の内を明かしてくれた。

地元の友達からは、どうしてEUじゃなくてわざわざ国連に入るの?って聞かれたわ。ヨーロッパでは国連よりも、自分たち共同体のために働く仕事のほうが社会的価値があるとされているのかもしれないわね。中立の立場を貫かなければならない国連職員は、そういう意味ではあまり推奨されていないと思うの。

なんて衝撃的な答え!

ヨーロッパでジャーナリストとしての輝かしいキャリアを積んだ後、30代前半で国連でマネージャー職についたという誰もが羨む職歴の持ち主なのに。

なぜ国連に入ったのか多くの職員に尋ねて、意外にも憧れという言葉を口にする人はものすごく少ないことに驚きを隠せなかった。

南国感溢れる東ティモール国連事務所

生半可な覚悟では生き残れない現場

国際協力分野に、国連という立場で関わっていこうとするならば、そういった人たちと肩を並べて共通の目的に向かって切磋琢磨していかねばならない。国籍も育った環境も価値観も何もかもバラバラな仲間たち。全員に共通しているのは今この時、同じ国で仕事をしているという現状。それぐらい。

一般企業であれば、最終的には利益の追求やCSRという共通目的に繋がるので話が早いかもしれない。しかし営利事業が本筋でない国連の場合、働くモチベーションや組織の方向性の理解は人それぞれ大いに違うということがわかった。

またフィールド勤務の場合は、不安定な水道電気ガス、一人で出歩けない日没後など、プライベート環境も良いとは言い切れない国が派遣先である方が多い。本来気を抜けるはずのプライベート空間でも、そういったストレスに対処する必要があるのだ。それでも職場では、日々この世界を少しでもより良くするという意思を確認しあって、チーム一丸となって計画を立てて実行までやり遂げていく。これは言葉で言うよりも、はるかに難しい。

根本的な問題解決どころか社会的不条理に加担しているとして国連職員を叩くメディアはたくさんある。私自身も100%国連信者とは言えない。けれど一つ言えるのは、国連は憧れだけではとても生き抜いていくことはできない、エグい現場だということ。そして、そこで生き抜いている職員のメンタルは、良い意味でめちゃくちゃ強い。

国連に入りたいという気持ちを持って国際協力分野に踏み出す学生の多くは、国連職員という立場に大いなる憧れの念を抱いているかもしれない。けれどその輝いている姿の背景には、まず前提として他の職員や派遣先政府らと対等にやり取りのできる言語能力と、日本人というアイデンティティでハロー効果を期待できない環境でも自分個人の価値を発揮していくガッツや専門性が強く求められる。一度飛び込んだら、英語できませんなんてヌルいことは言っていられない。専門性がないとか嘆いていられない。本気で国連職員を目指すのなら、そういう覚悟が必要だと思う。

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