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シンガポールで胃カメラしたら静脈鎮静剤投与して手術室に連れて行かれた話

やんわりとした白い光の中で、私は横たわっていた。

顔の半分をマスクで覆った、素性の知れない男性が見える。

“Don’t worry. Just relax. You won’t remember anything anyway.”

どうせ後で何にも覚えちゃいないんだから平気だよ。そう言っている。

メガネの奥で弧を描いた三日月目。仰向けに寝転がった私を見下ろしてくる。

頭上の巨大スクリーンには、細かな情報が映し出されていた。

私の名前。

私の体重。

私の血圧。

白衣の女性が近づいてきて、透明のチューブを少々乱雑に私の鼻腔に押し込んだ。

酸素濃度の高い気体が一気に流れ込んでくる。

左向きに横たわるよう促され、その指示に従った。

私の意識はそこで暗闇に引きずり込まれた。

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逆流性食道炎の疑いがあって

特に何もしていないのにお腹が張って苦しい。

たまに甘苦い胃液が食堂を伝って上がってくる。

小さい頃から胃下垂持ちの私は頻繁にこういった症状に悩まされる。

もう1ヶ月以上も前の事になるけれど、何かあってからでは遅いので、逆流性食道炎の疑いでシンガポールの病院に足を運んだ。

シンガポールにはラッフルズジャパニーズクリニック日本プレミアムクリニックジャパングリーンクリニック日本メディカルケアなど日本人医師の診察を受けられる病院がいくつもある。

私がお世話になったのは感染症・循環器内科を専門とされるお医者さん。

シンガポールでは初診から専門医にかかる事は稀で、一般総合医の診察を受けた後、追加手当てが必要であれば専門医を紹介されるというフローが一般的だ。

症状を伝えたところ、まずは胃カメラをしようということになった。

シンガポールの診察事情

・前日の夕方から飲食禁止

・当日は汚れてもいい服で

などの指示を受け、後日早朝から指定された内視鏡検査センター(Endoscopy Center)へ。

まず驚いたのは、患者さんの多様さだ。

シンガポールでは病院施設内のメディカルセンターが、同じ棟内の内視鏡検査センターを共有していることが多い。各所から内視鏡検査に訪れた約20名ほどの患者がロビーにたむろしていた。ざっと見渡した感じ、中華系が6割、マレー系が2割、インド系が2割ほど。ほぼ全員無言で携帯いじっているか、ソファーにもたれ掛かったまま、うつらうつらと浅い眠りについている。

受付カウンターのお姉さんに話しかけると、入り口の機械で番号札をゲットするよう諭された。

灰色の小さな箱。まさに銀行の窓口にある機械そのもの。

画面に浮かんだ「カプセル内視鏡検査」、「気管支鏡検査」、「大腸内視鏡検査」といったキーワードの中から、「胃腸内視鏡検査」をポチる。

ジジジジ…という音と共に、診断番号の印刷された紙切れが発行された。

早い・痛くない・記憶ない胃カメラ診断

待つこと10分。

壁にかかったスクリーン上で、私の手にした番号が点滅し出した。Leeさんと名乗る女性スタッフがやってきて、白濁色のスライド式ドアの向こうに案内された。

静寂は一転、何人もの白衣を着た人々が忙しく歩き回っている。途中、点滴をぶら下げて手術着に身を包んだ中年男性が、車椅子でどこかに運ばれていった。

シンガポールの病院は、病院らしい匂いがしない。イヤホンをつけて目さえつぶっていれば、図書館の一角と勘違いするかもしれない。無機質で冷たいイメージを覆すような、木目調のフローリング。アットホームな空間だ。

廊下のオープンスペースで身長・体重・血圧など簡単な健康診断が行われ、青緑色の患者着を手渡された。

上半身は下着も全て脱衣とのこと。「当日は汚れてもいい服で」と言われてきたのだけれど、関係なかったのか。。。

「今まで点滴でアレルギー反応が出たことありますか?」

「いえ、特にないです。」

「胃カメラをして副作用が出たことありますか?」

「それもないです。」

「OK、わかりました。では右手を出してください。」

内視鏡検査センターのスタッフさんの対応は、非常に素早く慣れっこだ。

…プスッ。

右手の甲にSFの攻撃機みたいなのがブッ刺さる。

局所麻酔ではなく「セデーション」だと説明された。あとで調べたら「静脈鎮静剤」だった。意識を消失しない程度に中枢神経系の働きを抑制するらしい。自然に眠っているようなリラックス状態に陥ることができるとか。

感激したのもつかの間、すぐさまストレッチャーがやってきて、その上に寝かせられた。

胃カメラ検査をなんと「手術室」で行うらしい。

ガラガラと運ばれていった部屋には、顔の半分をマスクで覆った男性医師が待ち受けていた。フルネームを名乗り出た後、こう付け加えられた。

“Don’t worry. Just relax. You won’t remember anything anyway.”

どうせ後で何にも覚えちゃいないんだから平気だよ、と。え、記憶なくすのか?

ここから先は早かった。

鼻腔に酸素チューブが取り付けられる。

ほぼ同時に、喉奥に麻酔薬を吹き付けられる。飲み込むまでもなく、グラス1杯のウォッカを直接喉に流し込んだような麻痺状態になった。声が出ない。

次に、胃カメラの通り道を広げるため左向きに横たわるよう促される。

血液内の酸素量を判断するため、手は外に出しておいてほしいと言われる。

やんわりとした白い光に包まれる。

私の記憶はここでおしまい。

次に目覚めた時は4時間が経過していた。見覚えのない部屋で、左腕に血圧測定器を巻かれたまま横たわっていた。

朦朧とした意識のモヤが徐々に晴れていき、正常化したところで検査は終了。

ちなみに胃カメラ検査の結果は「逆流性食道炎」ではなく「胃炎」で小さなポリープ切除も伴ったので、医療費は処方薬を除き$1,000弱もかかってしまった。一部保険が降りたのが救い。

それにしても日本で胃カメラをする時に、わざわざ全身眠らされることなんてあるのか。

モニターで自分の胃の中の映像を見せられつつ「オエエエェェエ」と嘔吐反射が出てしまうのだが、なんせシンガポールの内視鏡検査は「早い・痛くない・記憶ない」

出産時も「無痛分娩」という話をよく聞くけれど、命の誕生もこんな感じであっさりと終わるのだろうか。シンガポールの今後の医療事情に着目していこう。

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本日も最後まで読んでくださってありがとうございました!