シンガポール現地取材コーディネーターが見た米朝首脳会談の裏側

いよいよ開催が目前に迫った歴史的瞬間、米朝首脳会談。

今、両国首脳を乗せた車がそれぞれセントーサ島の中心に向かっていることだろう。

メディアの報道やSNS上では「緊張が走る」「厳戒態勢」「警備周到」など高揚感と危機感が入り混じった謳い文句が後を絶たない。シンガポール全土において一足触発な空気が流れているに違いないと危惧したシンガポール国外に住む家族や友人からは、心配の声をもらった。

しかし歴史的瞬間が刻まれようとしている当地で実感する”肌感覚”は、一連の報道とは異なる。

いつも通りの観光客。通常運転のホーカーセンター。ダイヤ一つ乱れない公共交通機関。山川出版社の世界史の教科書に載るべき大事件が、今ここで、この瞬間に開催されるという時に、なんとも呑気で平和な日常が繰り広げられていることか。

それどころか町中で米朝首脳会談関連の報道やポスターを、全く見かけない。

今回の首脳会談が多くのシンガポール人にとっていかに「他人事」であるかを物語っている。

一大イベントに燃えたぎるシンガポール政府と報道陣。

かたや、平和な生活の邪魔をされたくないシンガポール国民。

この2者の共存は世界的イベントを目前に可能なのだろうか?

飴とムチを使い分けるシンガポール政府

この二項対立を確立するためにシンガポール政府が兼ねてから推し進めているのが「飴とムチ戦法」だ。

シンガポールの異常なまでの監視と罰則が話題になったのは今に始まったことではない。ガムは禁止。歩きタバコもダメ。夜10時以降のお酒もいけない。事あるごとに罰金、罰則、もしくは法的措置が下される。

先日の米朝首脳会談に見られるように、シンガポールは「飴とムチの使い分け」と「目に見えない監視」に長けている。事を荒立てな...

だから今回テレビ局取材班のコーディネーションという仕事を受け持ったときは、正直負け戦だと思った。厳戒態勢で完璧な規制がかかっていたら、もう取材どころじゃない。コーディネーター業務が初心者の私なんてたちまち四面楚歌状態に陥って、役立たずのまま業務停止命令を受けるだろう。

そんなわけで半ば怯えながら始まった今回の取材だが、開始早々、予想とは大幅に食い違った現実に面食らった。

例えば、米朝首脳会談のため集った報道陣に向けに開設されたメディアセンター。

シンガポール政府が所有する投資会社テマセク・ホールディングスの100%子会社Mediacorpが運営を担っている。つまりシンガポール政府主導のエンターテイメント場だ。

センター内には2,000席500ブース(中継用モニター&高速Wi-Fi、その他備品付き)やケータリング、記念品まで用意されるという”おもてなし”が施された。

メディアセンター入り口付近のバルーン。

第一次セキュリティーチェック。

報道者向けの臨時メディアセンターが開設されること自体は決して珍しいことではない。

だたし今回の会談に向けて集った2,500名にものぼる報道陣を容易にさばける規模感で手厚いサービスを提供したことには意義がある。

同行した取材班のメンバーは、「早い者勝ちでブースをとるために陰湿なやり口を使う人がいないの。席数が充分にあるから皆んなピリピリせずに済むのかもしれないね。」と印象を語っていた。

来るものは拒まず迎え入れ、野放しにせずあえて好条件を与えることで来客を統制する。スマートなやり方がいかにもシンガポールらしい。

シンガポール政府はつくづく、人々の「自由」を操ることに長けている。「ある程度の自由を飼いならさせる」ことによって、生活に対する人々の不満を根絶しているのだ。

↓まさにこちらの記事が一刀両断している通り、「日常からの『見えない警備』が生きている」

抜け穴だらけのセキュリティー

米朝首脳会談の会場カペラホテルのあるセントーサ島。

本土から島へと続くロープウェイは、前日である11日もセキュリティーチェックなしの通常運転だった。ユニバーサルスタジオその他アトラクションも閉鎖予定なし。

左上、かすかに見える赤い屋根がカペラホテルだ。

周辺は木々が茂っていて全貌は捉えられないけど、腕の良い狙撃手なら任務を遂行できてしまうかもしれない。

セントーサ島へと続くモノレールに沿って伸びる橋には検問所が設置されているけれど、同じく「厳戒区域」にあるはずのロープウェイでは、いとも簡単に島に降り立つことができてしまった。

しかもロープウェイを降りれば、カペラホテルまで徒歩22分という驚きの近さ。

歩きで突撃してみたところ、なんと容易にホテル前までたどり着けてしまった。

歩道に沿って置かれた柵

11日午前。ホテル前。

会合前日にこのセキュリティの緩さ。

大丈夫なのかシンガポール。

もちろんこの先に踏み入ることは断念せざるを得なかったけれど、監視社会シンガポールの、あまりにも無駄のない治安統制には驚きを隠せない。

シンガポールで最多の発行部数を誇るThe Straits Timesによると、2012年から2016年にかけて、シンガポールのHDB(公共住宅)8,600ブロックにおいて52,000台もの監視カメラが導入されている。

それにシンガポール政府によって、「問題」を起こした者を社会的に抹殺するのは容易であるはず。

「監視の目が光っているから大丈夫だろう。」

「特に大きな問題は起こらないだろう。」

国民からは、政府の治安維持を信頼しきっている様子がありありと伺える。

だから町中でこんなにも緊張感を感じないんだろう。

一方で、それを巧みに操る政府。

この、双方が腹を割らずともできあがってる信頼関係が、なんとも気味悪くて、興味深い。

本当謎だらけの国、シンガポール。

—————————————————————————————————

本日も最後まで読んでくださってありがとうございました!