東京五輪ボランティア・無給の海外インターンは日本のオヤジたちによる新手の人身売買

シンガポールは、アジア諸国の中でも日本語のフリー誌配布が充実している。割引バウチャー満載の生活情報誌Parti、海外の教育情報ネタを深掘りする教育雑誌Spring、シンガポールのビジネス情報誌アジアXなど、個性豊かでバリエーションも様々。飲食店やスーパーなど、外出先で仕入れてきて一挙にシンガポール情報を得るのにうってつけだ。

先日、とあるフリー誌に目を通していたら、こんな求人広告が目に入った。

熱意のあるライター募集中!
営業インターン募集中(未経験歓迎!)

そして「一緒にやりがいを見つけませんか?」業種横断的に散漫している決め文句を見ると、シンガポールで日本人の人材確保がいかに厳しくなってきたのか垣間見える。

こうした求人はボランティア、つまり無給の案件であることが多い。そしてかねがね、2種類の人間をターゲットにしている。

まず、シンガポールで時間を持て余している駐在員妻。

学生のインターン派遣や第2新卒・中途の転職支援をしている友人曰く、「地頭の良いシンガポール駐在員のハートを射止めた奥さんっていうのは、結婚前のキャリアもそれなりに出世コースだった人が多いから、そこらへんの新卒よりよっぽど優秀で使える」らしい。シンガポールに駐在する日本人家庭の多くは、未就学児や幼稚園児のお子さんがいる。そのため妻はフルタイムで働けない、あるいは働くことを望んでいない。結果応募できるのはパートタイムやボランティアの求人になる。そんな優良人材であるにもかかわらずほぼ無給で働いてもらえるなんて、雇用主側からすれば好都合だろう。

次に、意識高い系の大学生。

在学中に海外インターンを検討するほど語学力も堪能な彼らは概して「就職に有利」「やりがいを発揮」などという謳い文句に弱い。インターンとしてシンガポールにやってきた日本人学生を8人ほど知っているけれど、どうやら大学の派遣プログラムの一環らしい。約3ヶ月に渡るフルタイムのインターンで、卒業要件の4単位が貰える。某大学の手当を聞くと、交通費は5万円支給。現地の生活費は自己負担。しかも彼らの多くは、1年後にはシンガポールにあるかもわからないような企業で、丁寧な研修もなく馬車馬のように働かせられていた。そして本採用につながらなくても、「業界での経験を積めるから有給じゃなくたっていい」らしい。

でもさ。十分な交通費と生活費さえ保証してもらえないようでは、それはもはや「無給」どころか「インターン先の会社への支払い」が発生していることになってしまわないか?

気立ての良い優秀な学生が一番利用される

学生にフルタイムの無償労働を課す会社の問題点は、単純に人を雇うお金がないことだ。シンガポールで人を雇うためのEPやS Passは、それぞれ月額固定給与のS$3,600、S$2,200を支払う余裕がなければ発行することはできない。

コミュニケーションに遜色ないレベルで日本語を話せるシンガポール人ならたくさんいる。しかし日本のビジネスマナーや価値観に共感してくれる人となればごくわずかだろう。

その結果、何とか労働力を確保するために、日本人学生を「海外での就業経験で差をつける」とか「就職に役に立つ」とかうまくそそのかしてシンガポールまで連れて来るという新手の人身売買に走る。学生であれば、駐在妻よりも時間の制限が緩く、未来への投資という名の甘い蜜で誘い出すことが容易だろう。

日本でも、莫大な規模でこうした学生に無償労働を促すイベントが到来しようとしている。2020年の東京オリンピックだ。先日も国が高等機関に対しボランティア促進通知を出すというニュースで目を疑った。つい数年前に学業に支障をきたすという理由で就職活動解禁日を遅らせたと思えば、今度はボランティアに参加しろときた。言っていることが支離滅裂で腑に落ちない。

「学徒動員」と批判の集まるボランティア動員計画の規模は、大会運営に直接関わる「大会ボランティア」の8万人、旅行客への観光案内を主とする「都市ボランティア」の3万人、計11万人。それぞれの活動時間は10日(8時間程度/ 日)、5日(5時間程度/ 日)が条件だという。

気になるその内容を調べてみたけど、どれも語学力やコミュニケーション力、場合によっては免許が必要な、高度なものに思えた。

<案内> 会場内等で観客や大会関係者の案内、チケットチェックや荷物などのセキュリティチェックのサポートを行います。また、競技会場以外にも空港やホテルで、大会関係者が円滑に日本に入国・宿泊できるよう、案内を行います。
<競技> 競技会場や練習会場内で競技運営等のサポートを行います。競技に必要な備品の管理を手伝うまたは、競技会場内で競技の運営そのものに関わるなど、場所や競技によって活動は多岐にわたります。
<移動サポート(運転等)> 大会関係者が会場間を移動する際に車を運転し、快適な移動となるようサポートをします。自動車の運転を行うために普通自動車運転免許が必要です。
<ヘルスケア> 選手にけが人が出た場合、医務室への搬送サポートを行います。「ファーストレスポンダー」は応急手当セットを所持して2人1組で会場内を巡回します。また、ドーピング検査のサポートは、対象選手への告知、検査室への誘導や受付を行います。(検体採取は有資格者が行います)

いずれも東京までの交通費と宿泊費は一部自己負担だ。しかも、ジリジリと照りつける炎天下の中で!

やりがいを得るためにボランティアに参加したいという気持ちは素晴らしいと思う。

でも、その決して誰でもできるわけではないボランティアで求められるスキルを得るために、今までかかった時間とお金はどれくらいだろう?求められるスキルは、果たして無償で惜しみなく提供できるレベルであって良いのか?

仮にボランティアに捧げる80時間を、時給1,000円のバイトに換算してみたら8万円にもなる。80時間あったら本を1冊読み終えられるかもしれない。8万円あったら旅行にだって行けるかもしれない。私だったら時間とお金を無視してまで、このボランティアに参加する意味を自問してしまうのだけれど、「やりがい」を一番に求める学生らはきっと「報酬は気にしない」と言うだろう。

結局「気立ての良い優秀な学生」が、政府や委員会のオヤジたちに一番利用されてしまうのだ。

無給の海外インターンは日本のオヤジたちによる新手の人身売買

日本人学生の無給インターンが定着している一方、海外では有給インターンの重要性が見直されている。

例えば米国では「無給のインターンシップは時代遅れ」として2012年より無給インターンの割合を減らし続けている。失業率が過去最低レベルに低下していることで、以前は無給であった未経験労働者向けのインターンシップなどのポジションにも給与が支払われるように変わってきているという。

シンガポールの優秀なインターン生であれば、会社が月にS$10,000以上も支払っているという。

ただでさえビザの降りにくいシンガポールに、学生のうちからインターンにやってくる大学生というのは皆例外なく優秀だ。海を渡る行動力、外国人とコミュニケーションを取る語学力、それに加えて各人の専門性。そういった輝かしい能力が安売りされていることに疑問を感じざるを得ない。

—————————————————————————————————

本日も最後まで読んでくださってありがとうございました!