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シンガポールの自称落ちこぼれ組が明かす共食い「Sinkie pwn Sinkie」とは

海外生活

久しぶりに、シンガポール人の元上司から連絡があった。元気?という一言で、whatsupチャットが始まる。

彼女はシンガポール国立大学(NUS)卒業後、大手外資系金融企業のトレーダーとして5年間勤め、大手コンサルティング会社のアナリストを経験し、前職である米系リサーチ会社のマネージャーに就いたという華やかな経歴を持つ。絵に描いたような頭脳の明晰さで、右に出る者はいなかった。しかし彼女には一つ近寄りがたいところがある。「キアス」である。

キアスとは、何でも1番にならねば気が済まない精神のこと。シンガポールの国民性を形容するのに頻繁に持ち出される言葉だ。

キアスの典型である彼女は、自分の友だちに恋人ができると負のオーラをむき出しにしたり、幼馴染の男子友達と給料を競ったりと、とにかく何でも競争好きだった。私が転職を伝えるためにランチに誘った時も、彼女が手に取ったピザの一切れに、私の一切れよりも多くのサラミが乗っかっていることを満足気に口にしていた。

「十分優秀なんだから、そんなに争わなくたっていいのに」という私の言葉を遮って、自分は優秀なんかじゃない、という前置きの後、こう続けた。

▶︎上位20%は、海外に出るか政府機関勤務

▶︎下位20%はマックやスタバなど飲食店勤務

▶︎中間層60%が民間企業のオフィス勤務

そのため本当に頭の良いシンガポール人は、街中で見かけることなんてないらしい。有名大学の学位を取っておきながら民間企業戦士の一員をしている彼女は「落ちこぼれ組」なんだと。

そうかなぁ?

どうなれば勝ち組かなんて定義は人によってマチマチだし、彼女は十分優秀だと思うんだけどな。

とはいえシンガポールは隅から隅まで競争社会なのは事実である。教育現場でも、クラスはA、B、C、D、E…と成績順に振り分けられ、原則的に下剋上は不可能に近い。クラス分けというと、習熟度が低い生徒にも等しく内容を理解させるための補習的役割が一般的だけれど、シンガポールの場合は単に「落ちこぼれ」を切り捨てるためにあるようなものだ。 

外国人がシンガポールに駐在することでシンガポール人の雇用機会に制限がかかるなど、シンガポール人 vs 外国人の争いは常に浮き彫りになっている。しかし最も熱き戦いを繰り広げてシンガポールの発展に制御をかけているのは、実はシンガポール人同士だと彼女はしきりに訴えていた。

シンガポール人の共食い”Sinkie pwn Sinkie”

そんな「シンガポール人同士の争い」を、面白おかしく表した言葉がある。

【Sinkie pwn Sinkie】(発音: シンキー ポゥ シンキー)
シンガポール人同士で争っている間に、他人が利益を享受してしまうこと。あるいは外国人が好成績をあげたり職を見つけたりして、いつのまにか自分たちよりも秀でてしまう現象のこと。

要するに「シンガポール人の共食い」みたいなものである。

Sinkieとは、シンガポリアンが使う若干自虐的な自称表現だ。先のシンガポールの総選挙で、与党である人民行動党(PAP)を圧勝に導いたシンガポリアンたちを揶揄するような政治的意味合いも含んでいる。

pwnは、対戦ゲームで相手を撃ち落とす時の効果音らしい。

【職場での Sinkie pwn Sinkie 例】

白人崇拝文化は、ここシンガポールにも蔓延っている。アジア人100%だった前職オフィスに、米国本社やヨーロッパから青い目のお偉いさんがやって来たときの、シンガポール人女子のはしゃぎようから明らかだった。

常に着飾り、白人男性とのお付き合いを好む女性を、シンガポールやマレーシアでは「Salon Party Girl」と呼ぶ。略してSPG。

嘘のような話だが、シンガポール人SPGマネージャーが、白人社員を贔屓する例は多い。他のシンガポール人の評価を下げることで、自身を優位に立たせようとする争いは、Sinkie pwn Sinkieである。

【企業のSinkie pwn Sinkie 例】

シンガポール政府によって運営されているシンガポールの鉄道(SMRT)。かつては空いていたが、外資の誘致により混雑さは増し、メンテナンスの為に巨額投資が欠かせなくなった。先日13日に就任した新しいCEOが「SMRTは国民の信頼を取り戻します!!」と宣言した翌日に、電力供給不足で列車がダウンする始末。

結局「電車はよく止まるから」という理由で、レンタルバイクOFOや、Grabタクシーの利用者が増えてしまう。

シンガポール人のために、シンガポール人が作ったもので、シンガポール人が困っている。まさにSinkie pwn Sinkieな結果だ。

【日常生活のSinkie pwn Sinkie 例】

女運のないシンガポール人Dが、GCP女子にメンタル崩壊させられたことが発覚してから早4日。相変わらず彼の姿は見ないが、今朝グループチャットで無事に生存が確認された。

D「eh train just stopped n got stamped by grl’s heel」

通勤中、電車が停止した拍子に、女子のハイヒールに踏まれたという。そしてヒールの持ち主は謝罪の一言もなく、電車を降りてしまった。

それがイラっとしたんだという旨を、シンガポール人の話す英語、シングリッシュ全開で報告してきた。

すかさず、別のシンガポール人Kが返答する。

K「oh so you got pawed by Sinkie right」

D「nah the gur just GCP loh」

「そこらのシンガポール人にやられたんかい」

「いやGCPっぽかったわ」

現在の与党を支持せず、名前を聞いてもピンと来ない大学の文系学部卒であるDは、自分のことを「落ちこぼれ」だと卑下する。例のごとく、彼も私からみれば優秀そのものなんだけどね。自分も自分だけど、ゴメンナサイの一言もなく去った相手も相手だろ!ということで「Sinkie got pawed by Sinkie」的なシチュエーションだったらしい。

僕、バカじゃないよ

そんな「Sinkie pwn Sinkie」なシンガポールの社会風刺を描いたのが、2002年公開の「I not stupid」というシンガポール映画だ。

テストの成績順で最弱頭脳の持ち主が集められた「EM3」クラス。主人公はここで勉強することになった、いわゆる「落ちこぼれ」の小学生男子3人。学力偏重主義の社会からの圧力や、周囲の大人からの軽蔑などに向かっていく。

シンガポール人同士の激しい学歴競争の中、家で母親が鞭をふる絵が特に強烈だ。

親しいシンガポール人男子によれば、鞭打ちは、下層クラスにおいて日常茶飯事であったとのこと。彼が通っていたジュニア・カレッジでは授業中に椅子が宙を舞うことも頻繁にあったそうだ。「今は滅多に起きないけど、昔は」と付け加えた彼は今年で28歳だから、そこまで「昔」でもないだろうに。そういえば映画「イロイロ ぬくもりの記憶」でも、学校で悪さをした主人公の少年が、母親に鞭打ちされていたな。

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同じ「シンガポール人」という土俵に立てば、周りと簡単に比較されてしまう。

だけど自国民と外国人が共存することによって、生き方の多様性が生まれることで、彼ら自称「落ちこぼれ」は楽に羽を伸ばせるようになったのかもしれない。

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本日も最後まで読んでくださってありがとうございました!